目次
1.認知症の判断
--物忘れと記憶障害、認知症の医療相談
2.認知症への理解
--認知症サポーター養成講座、介護者の会、認知症カフェ
3.最強の老人介護
--「老人のいやがることをしない」思想
4.認知症のまめ知識
--中核症状と周辺症状、一人暮らしの限界判断
1.認知症の判断
日本の認知症患者は最近では500万人弱と言われていますが、2025年には700万人に増え、高齢者の5人に1人が認知症患者になると推定されています。認知症は初期の段階で見つかれば、進行を止められる病気になりつつあると言われています。認知症の疑いがあったら、主治医さらには認知症外来を受診し、進行を食い止めることで生活の質(QOL)を保つことが可能です。下に、判断の基準をつけておきました。
加齢による物忘れと記憶障害の違い | |
加齢による物忘れ | 認知症の記憶障害 |
---|---|
経験したことが部分的に思い出せない | 経験したことを忘れている |
目の前の人の名前が思い出せない | 目の前の人が誰だか分からない |
ものの置き場所を思い出せないことがある | 置き忘れ・紛失が頻繁になる |
何を食べたか思い出せない | 食べたこと自体を忘れている |
約束をうっかり忘れてしまった | 約束したこと自体を忘れている |
物覚えが悪くなったように感じる | 数分前の記憶が残らない |
曜日や日付を間違えることがある | 月や季節を間違えることがある |
認知症の医療相談
本人やご家族が認知症ではないかと思った場合に、第一の相談窓口となるのは、やはり高齢者総合相談センター(地域包括支援センター)になります。ここで、認知症かどうか判断するための専門医療機関を紹介してもらうというのが、早道です。
場所:豊島区要町1-5-1
電話:03-3974-0065
情報源として非常に便利なのが、「豊島区医師会ホームページ 認知症」です。
豊島区医師会ホームページ https://www.tsm.tokyo.med.or.jp/dementia/
これによると、年2回、この地区では西部高齢者総合相談センターで物忘れ相談医による簡単な検査、アドバイスが受けられます。令和元年度のスケジュールはこちら(豊島区の認知症の相談のホームページ)です。
医師会のホームページでは、豊島区での地域連携型認知症疾患医療センターとして、豊島長崎クリニックが電話での相談に応じていることが紹介されています。
住所:豊島区長崎4-25-15
TEL :03-6905-8015、FAX: 03-6905-8685
受付時間:平日 9時~17時 休館日: 土日 祝日 年末年始
まずは電話でご連絡ください。認知症専門の職員が無料で相談に対応いたします。
認知症かかりつけ医
豊島区医師会のホームページでは、以下のような相談の時に認知症かかりつけ医に相談するようにアドバイスしています。
・認知症かどうか心配なので、まず近くの医療機関を受診したい。
・大学病院などにある認知症専門の外来を受診したいので、紹介状が欲しい。
・大学病院などにある認知症専門の外来に通院していたが、通院が大変になったあるいは病状が安定しているので、担当医から近くの医療機関で診てもらってもいいですよと言われたので、探したい。
・介護保険のサービスを受けたいので、「医師の意見書」を書いてほしい。
豊島区医師会 認知症かかりつけ医リストはこちらです。
また、認知症外来のある医療機関のリストも掲載されています。リストはこちらです。
繰り返しになりますが、認知症の予防には早期発見が肝心だということです。早めに高齢者総合相談センターに相談し、医療機関で見てもらうことが勧められます。最近は認知症治療剤「アリセプト」という薬が開発されて、認知用の進行を抑制することができるようになったためです。もっとも、認知症だと診断されると、本人が落ち込んだり、不安を感じたりすることも少なくないようで、診断後の精神的なケアも必要のようです。また、実際に認知症の症状が進むと、家族がどう対応したら良いか、困る場合が多いのです。以下では、家族による対処の仕方を、個人的な経験も交えて、述べておきたいと思います。
2.認知症への理解
自分の両親が認知症になると、最初の反応はなかなか受け入れがたいというものでしょうか。私個人の例でも、認知症だった父は耳は遠いし、言うことを聞いてくれないので、最初は怒鳴ってばかりでした。そのうちに、本を読んで認知症患者への対応を学び、だんだんうまく行くようになりましたが、症例も様々で、一つのうまいやり方がある訳ではないようです。
認知症サポーター養成講座
認知症への理解に必要な知識を学ぶもっとも手軽な方法は、各所で開かれている認知症サポーターの養成講座を受けることです。全国キャラバン・メイト連絡協議会が作成した標準テキストに基づいて、認知症とは何かを知り、認知症患者にどうやって接したら良いかを教えてくれます。講座を受けるとオレンジリングをもらうことができます。豊島区にもキャラバン・メイトという認知症サポーター講座の先生になる資格を持った人達がいて、職場や区民ひろばなどで講習をしています。原則として無料で受けることができます。
認知症の人への対応
講座のテキストには、認知症の方への対応も書かれていますが、自分自身の経験も交えてまとめてみると、以下の点が重要だと思います。
①後ろから突然声をかけたりしない。
②相手に目線を合わせて、穏やかな声で話す。(見下ろすのは良くない)
③笑顔が大切
④できれば横並びで座って話す
⑤何かこちらから話しかけるよりは、相手が話し始めるのを待って、耳を傾ける
⑥一時的に嘘を言っても良いから、否定せずに、受け止め、安心させる
特に、その場限りの嘘を言っても、認知症の患者さんにとって受け入れ易いことを言う方がよいようです。逆に「そんなことはない」「そんなことをしてダメだ」と言うのは余り効き目がありません。むしろ、「そうですね」「そうしてみましょう」「大丈夫ですよ」など安心させるように対応する方がよいようです。認知症の患者さんはこだわっていることをすぐに忘れてしまうことが多いのです。このことを知ってから、随分と気が楽になりました。
それでも認知症の患者を抱えた家族は、様々なストレスを抱えがちです。一人で抱え込むのはよくありません。以下のような活動団体を利用することもできます。
認知症の方やご家族の集まり
認知症介護者の会
介護者の会というのは、認知症の方を介護しているご家族だけが集まる会です。区が養成した介護者サポーターなどが運営しており、認知症介護をしている悩みを聞いてくれたり、また、他のご家族と情報を共有したりすることができます。豊島区には5つの介護者の会があり、年間スケジュールを組んでいます。認知症患者を抱えた方は、それほど遠くまで行くことは難しいでしょうから、近くの介護者の会を見つけて、訪ねてはどうでしょうか。ただ、認知症の高齢者と一緒に参加できるかどうかは、会によって違いがあるようですので、確認してください。
認知症介護者の会 リーフレット(2024年度スケジュール)
西部圏域では区民ひろば要で「介護者の会ひまわり」が開かれています。なお、他の介護者の会につきましては、すみれが令和6年3月で終了、たんぽぽは令和5年9月から会場変更(場所は未定)、土曜の会は令和5年9月より場所が山吹の郷「カフェテラス山吹」に変更になります。参加の際にはご確認ください。
開催場所:西部区民事務所 会議室
豊島区千早2-39-16 2階 主催:認知症サポーター
開催日時:毎月第3金曜日 午前10時~11時30分
対象: 認知症の患者さん及びそのご家族
費用: 無料
問い合わせ先:豊島区保健福祉部高齢者福祉課
介護予防・認知症対策グループ 03-4566-2433
認知症カフェ
また、豊島区では認知症カフェが15カ所にあります。認知症カフェは認知症のご家族だけでなく、近所の方、ご自身で認知症の不安がある方でも参加する事ができます。ここでも、お茶などを飲みながら参加者同士やボランティアと交流したり、音楽や体操などのイベントを楽しんだりすることができます。豊島区全体ではすでに15カ所が認知症カフェに登録されています。
西部圏域では、「杜のカフェ」と「いずみサロン」が比較的近いといえます。
認知症カフェ登録一覧
(豊島区の認知症カフェのホームページでご覧ください)
(注)マップ・一覧中の「らくゆうサロン 千川の杜」は平成30年度から、高齢者サロンの登録となりました。認知症カフェは杜のカフェに引き継がれました。
杜のカフェ
杜のカフェは特別養護老人ホーム千川の杜で、平成30年4月から立ち上がった新しい認知症カフェです。これまでは「らくゆうサロン 千川の杜」をやっていましたが、加えて杜のカフェを始め、認知症のご家族の方や地域の高齢者向けに、老人ホームスタッフの専門知識を生かしたお話などを中心に、毎月第1土曜日(場合によっては第2土曜日になることがあります)に開催されます。
セルフでお茶やコーヒーをいれ、お菓子を食べながら、くつろいだ雰囲気で話しを聞いたり、質問をしたりすることができます。らくゆうサロンとは違い、少人数を対象としたカフェ形式にしたいことから、事前に電話で申し込みをしていただきたいというのが、主催者側の要望です。
杜のカフェ
基本情報
開催場所:特別養護老人ホーム 千川の杜 地域交流スペース
要町3-54-9 旧千川小学校跡地
開催日時:原則として毎月第1土曜日 午前10時30分~12時
対象:認知症の方やそのご家族
参加費: 無料
問い合わせ先:03-5917-0370 (千川の杜)担当:石山
3.最強の老人介護
私自身が認知症の父を介護しているときには、まだ家族の会のようなものはなく、十分な情報交換ができなかったように思います。自分の知識が乏しかったせいかもしれません。その分、本を読みあさって、認知症を理解しようと努めた記憶があります。
「最強の老人介護」という本は三好春樹さんが現場の経験から書かれた本ですが、とても参考になった本です。特に、認知症に関する様々な指摘は、自分自身の介護の経験に照らしても、とても頷けるものでした。中には目から鱗というような指摘も数多くあります。とても全部を紹介しきれないのですが、いくつかを紹介したいと思います。
「老人のいやがることをしない」思想
彼が第一に大事にすることを求めているのは、「老人のいやがることをしない」思想です。近代医療は「老化した身体でいかに生きていくのか」については驚くほど無力であると指摘しています。介護を経験している方は、いやがることをしないというのが、いかに難しいかということを感じておられると思います。認知症の高齢者は、チューブを繋がれるのをいやがります。仕方なく拘束する、それは仕方のないことか? オムツに排泄させることは? 寿命も大事だし、生活の質も大事。究極の選択を迫られる場面が多くあります。そうした問題について、現場からの介護論を教えてくれる本です。
いくつかのポイントをご紹介しましょう。三好さんは「認知症の生活の場の3分類」というのをあげておられます。「葛藤型」「回帰型」「遊離型」の3つです。
認知症の生活の場の3分類
「葛藤型」はかつて社会的な地位が高かった人に多い。かつての自分に戻りたい気持ちが人一倍強いが、がんばってもできない自分を受け入れることができない。この人たちにはその葛藤を周りが理解してあげることが大切。「回帰型」は「仕事に行く」とか「子どもに乳をやらなきゃ」と行って出て行くようなタイプ。心の中で過去に戻ることによって、失われていく自分らしさを取り戻そうとする。諭したりするのでなく、話を合わせてつきあってあげれば良い。さらに、誰かに頼りにされ、自分が自分だと思えるような生活を作ってあげることが、最良の対処法。
「遊離型」は現実の世界を拒否し、自分だけの世界に入り込んでいくように、話しもしなくなってしまう。こうした人たちを復帰させるのには、風船バレーボールをさせたりして、共感的世界に復帰させるのが良いという。なぜなら心は閉じていても、感覚は世界に向かって開いているからだ。
環境を変えない
三好さんが提唱している認知症ケアの7原則というのがありますが、その第1は、「環境を変えない」ということです。引っ越しや施設入所、入院などで急速に惚けてしまう話は沢山あります。(私の父のケースも全くそうでした)。できるだけ今いる環境で過ごさせることが、最良と言います。
そして環境を変えざるを得なくなったときも、「人間関係を変えない」ことが第2の原則だそうです。できるだけ今までの人間関係が続いていることを実感させる。できるだけ頻繁に、これまでつながりのあった人が訪問することは大事だと言います。3番目に「生活習慣を変えない」ことを三好さんはあげています。
認知症になった高齢者は、初めての世界を不安を持って生きています。環境と人間関係の変化によって、自己喪失の危機を迎えているのだと、考えなければいけないようです。当たり前の生活を続ける、あるいは取り戻すことが最も重要だ、と三好さんは言います。是非、参考に読んで欲しい本の一つです。
4.認知症のまめ知識
認知症の代表的な病気であるアルツハイマー病は、簡単に言えば、脳に大量のゴミがたまることによって発症する病気です。ゴミとは2種類のタンパク質で、最初にたまるのがベータ・アミロイド。加齢に伴ってできてくる老人斑がこれに当たるそうです。老人斑ができると、もう一つのゴミであるタウがたまり始め、神経細胞が壊れてしまう、というプロセスで認知症は進行します。その進行は緩やかで、5~10年で支援や介護が必要になるそうです。
中核症状と周辺症状
認知症の理解には、中核症状と周辺症状(行動・心理症状)と呼ばれるものがあります。「中核症状」は脳の神経細胞が壊れることによって、直接起きる症状で、誰にでも現れる症状です。例えば、直前に起きたことも忘れてしまう、筋道を立てた思考ができなくなる、予想外のことに対処できなくなる、計画的に物事が実行できなくなる、いつどこなのかわからなくなる、物の使い方が分からない、人の名前が分からない、などの症状です。
一方で、周囲の人との関わりのなかで出てくる症状は行動・心理症状と言われます。暴言や暴力、興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、せん妄、徘徊、物が取られたという妄想、弄便、失禁などがこれに当たります。これは人によって出てくる症状が全く異なるので、様々な対応が必要になってくるわけです。認知症の患者との接触の中でトラブルの元になったりするのは、かなりの部分がこれだそうです。
(出典)認知症フォーラム.com
中核症状というのは病気そのものです。今、薬が次々と開発されていますが、完全に直すところまでは言っていないようです。しかし、周辺症状については、様々な配慮などで、軽減することがある程度可能だと考えられているようです。
個人的な経験で言うと、父の場合には、徘徊や暴言・暴力は全くありませんでした。しかし、母が入院していないと、玄関まで出て母を探しました。母が入院をしている、などと書いた張り紙をしたり、何度も言って聞かせたりしたのですが、全く効果がありませんでした。やはり不安が強かったのだろうと、今になると思います。
せん妄の症状から徘徊まで
せん妄はあり、最初に入院したときに、病室の少し離れたところにあるカーテンの影に試験官がいて、これから試験を受けなければならないと言って、体を硬直させているのには驚きました。そのときは「もう帰ったよ」というと落ち着きました。また、妹が秋葉原で待っているので、迎えに行くなどと言い出したこともありました。
昼夜逆転もありましたが、これは夜お腹が減って起きてしまうようでした。出してあったお菓子などを食べてしまうのですが、「朝ご飯になったら起こすから大丈夫」というと安心して寝ることが多かったように思います。
父が老人ホームに入った時に、テーブルクロスに書いてある花の模様を必死に取ろうとしているおばあさんを見たことがあります。何度も注意されるのですが、ビニールから花の模様を爪で無理矢理切り取ろうとするのです。結局、切り取ってしまい、クロスには穴が開いてしまうのですが、本人はほっとした様子でした。
こうした認知症の不思議な行動・心理症状は、日常生活でいくらでも出くわすことでもありますが、やはり深刻なのは徘徊のようです。ある方のお父さんはなんと豊島区から保土ケ谷まで行ってしまったそうです。こうした人が踏切事故にあって、損害賠償を求められたりすることがあれば、単なる困った行動では済まなくなります。やはり徘徊の見守りなどは、近所の助けが必要です。認知症の人でも安心して暮らせる町作り、地域の問題として取り組む必要があると思われます。
一人暮らしの限界・その判断基準
遠くに離れて住んでいるご家族が一番困るのは、いつまで一人暮らしでも大丈夫なのかという問題です。伊東大介さんが書かれた「認知症 専門医が教える最新事情」は認知症の理解に大変に役立つ本で、是非読むことをおすすめしますが、伊東さんはこの判断基準をまとめてくれています。
①食事がきちんとできない
②家の中が不衛生
③火の不始末が出てきた
④近所に迷惑をかける
⑤お金の管理ができない
⑥徘徊が始まる
この本には認知症は防げるのか、医療機関をどうやって選ぶか、などの実践的な記述が多く、Q&Aも充実しているので、指針として役立つ知識を与えてくれると思います。
参考図書:
伊東大介「認知症 専門医が教える最新事情」(講談社 α新書)
大井玄「『痴呆老人』は何を見ているか」新潮新書
三好春樹「最強の老人介護」講談社